シャドウ・ミュージアム 制作後記


 このページでは、拙作「シャドウ・ミュージアム」の制作過程で考えたこと・感じた点や、作品の内容に関する細かな情報などを(自分用の備忘録も兼ねて)記録しています。

 性質上、内容に関するネタバレを多く含みます。本編をプレイされていない方は、できましたら一度遊んでいただけますと幸いです。

制作のきっかけなど

 Twitter上で天使と悪魔のゲームセレクト(以下「ゲームセレクト」と表記)について知り、参加したいと思ったことが直接的な制作のきっかけでした。前作と異なるゲームジャンルを選んだ理由はいくつかあるのですが、以前購入したままになっていたRPGツクールを有効活用したいということと、キャラクターが出てくる物語を作ってみたいという動機が主だったと思います。また、ちょうど同時期に画像加工ソフトウェア「ふぁみこんぶ」のことを知り、使ってみたいと思ったため、今回のゲームはファミコン風グラフィックで統一することに決めました。その後、どうせなら絵だけでなくサウンドやテキスト、システムも可能な限りこだわってみようということで、いろいろ試行錯誤した結果がゲーム本編になります。

(このあたりについては、後の「コンセプト」項でも多少触れています)

 

 制作にあたって最初から決めていたのは、マップレス(ノンフィールド)のRPGを作る、物語の設定は最小限、終わり方はハッピーエンド、の三点でした。

 最初の点に関してはもともとノンフィールドRPGが好きということもありましたが、この作品の前に作りかけていたゲームがマップ制作の段階で頓挫したため、苦手な作業は極力省くようにした結果でもあります。なお、制作を中断したゲームはマップ探索型のRPGで、「禁書奇譚」という呪われた書物の世界を冒険する女性の物語でした。こちらも個人的には気に入っているので、いつか日の目を見せてやりたいのですが、実際に機会があるのかはまだわかりません。

 

 ふたつめの点については、これまで遊んできたノンフィールドRPGに淡々とした作風のものが多かったのも理由の一つです。また、物語を作るならなるべくシンプルに、遊んでくれる方の想像の余地を残したつくりにしたいという気持ちがあったことも大きいかと思います。多くの設定や作りこまれた世界観を持つゲームには何物にも代えがたい魅力がありますが、情報量が増えれば増えるほど、作り手・遊び手双方がそれらを消化しきれなくなる可能性も高まるものです。そういうわけでシャドウ・ミュージアムの制作にあたっては、ストーリーとキャラクター双方の設定をあまり作り込みすぎないようにしています。

 

 本編中でもゲーム開始時にイベントの量を「おおめ」「すくなめ」の二通りから選べますが、作者が当初想定していたボリュームは後者であり、前者についてはテストプレイ依頼直前になんとなくイベントを追加したという経緯があります。ただ、いただいた感想を見ていると追加部分が印象深かったという方もいらしたので、これでよかったのかもしれません。

 

  最後の三点目はこのゲームを作ろうと思った時、自分の中で真っ先に決まったことでした。悲惨な物語も救われない終わり方も読み手としては好きなのですが、自分で物語を作るとなると、どうしてもハッピーエンドに持って行きたくなってしまいます。遊んでくださった方には気持ちよくゲームを終えていただきたいですし、せめて物語の中でくらい、努力が相応に報われることがあってもいいと思うので。

 

作業について

 Twitter上での企画の告知があってからすぐに制作を開始したため、作業期間は約一ヶ月半程度でした。6月中旬~後半でダンジョン探索の雛形を作り、7月いっぱいでグラフィック・BGMほか素材の用意、ゲームバランスの調整、テキストの追加など残りの作業を終わらせたように思います。また、7月下旬~8月上旬にかけて複数名の方にテストプレイをお願いし、それぞれの方からいただいた意見のフィードバックに一週間程度費やしました。

 

 制作中に一番難しく、また楽しかったのは、テキスト全般を書いている時でした。「レトロゲーム風」というコンセプト上、作中の文章はほぼすべてひらがな・カタカナのみで表記することにしたのですが、実際に書いてみると思った以上に難しい作業であると感じました。作中では短い字数で可能な限りわかりやすく、無味乾燥にならないような書き方を心がけたつもりでしたが、今見返してみるとまだまだ改善の余地があるようにも思えます。いちアマチュアの作品と比べるべきではないのかもしれませんが、ファミコンやゲームボーイといった8bit世代のゲームを世に送り出された開発者の方々は、本当に洗練されたテキストをお書きになっていたのだと改めて実感した次第でした。

 

 また、同じく大変だったのは、キャラクターの顔グラフィックを作成する作業でした。自作キャラクターを出したいという動機で作り始めたとはいえ、イラストを描くのはそれほど得意でなかったので、ドット絵のコツをつかむまでにはかなり時間を要しました。ツクール2000の顔グラフィック規格は一キャラクターにつき48*48pixelのサイズということで、細かい部分まではなかなか描き込めなかったことも悩ましいところでした。最終的にはアナログ画をスキャン→加工ソフトでコントラスト調整→48*48pixelにリサイズ→ドットペイントソフトで上からなぞって描き直すという方法に落ち着きました。次回、同じような工程があれば、他の手段も模索してみたいと思っています。

 

 そしてゲームバランスの調整段階では、ご協力いただいたテストプレイヤーの皆さまからのご意見、ご感想のありがたさを何よりも実感しました。自分で気づいていた部分、思いもよらなかった部分、変更しようか迷っていた部分など多くのご指摘をいただき、結果として全体の完成度を大きく高められたように思います。いただいたご意見の中には反映しきれなかった点やそのまま残した点もありますが、正式公開前にブラッシュアップの機会をいただけたことは大変ありがたく感じました。今後も何か作ることがあれば、遊んでくれる方にとって少しでも遊びやすく、快適なゲームになるよう心がけたいと思っています。

 

コンセプト・心がけた点

 「制作のきっかけ」で書いた点と重複する部分がありますが、今回シャドウ・ミュージアムを制作するにあたり、心がけたのは以下のようなことでした。

 

・レトロゲームらしさに可能な限りこだわる

・プレイヤーの方が快適に遊べるようなシステム、難易度を心がける

・自分の演出的なこだわりと上記の二点が衝突した際は、遊びやすさを優先する

 

 最初の点については、おもにコンシューマゲーム黎明期の雰囲気を出せるよう、使用素材とシステムの双方に気を配りました。具体的にはキャラクターグラフィックや背景のパレットをファミコンと同じ最大同時発色数に揃えたり、前項で書いたようにテキストにこだわってみたり、遊ぶ方が覚えなくてはならない複雑さをなるべく省いてみたり、という具合です。最後の部分についてはふたつ目の点にも通ずることで、メッセージウェイトやセーブ制限、長すぎる戦闘やイベントなどは極力排するように心がけていました。これはゲーム全体の遊びやすさを優先すると同時に、自分がテストプレイする際、少しでもわずらわしい思いをしたくなかったせいでもありました。

 

 何をもってレトロゲームらしさとするかは、プレイヤーの方ひとりひとりによって違う部分だと思われます。シャドウ・ミュージアムはレトロゲーム「風」ではありますが、8bitゲームの黎明期にみられたアンバランスな魅力――ピーキーなバランスの戦闘、ヒントの少ない謎解き、あまり親切とはいえないインタフェースなどを必ずしも忠実に再現しているわけではありません。そういう意味ではこの作品はあくまでレトロゲーム「もどき」であって、高難易度なゲームを愛する往年のプレイヤーからすれば、物足りない部分も多々あるかと思います。

 

 ただ、制作当初から意識していたのは、そうした昔らしさへのこだわりと遊びやすさが対立した際に後者を優先することでした。ゲームに関わらず何かを作る時の個人的な信条として、なるべく間口は広く、敷居は低く保ちたいという思いがあったためです。個人的な体感ですが難易度が低い・やさしすぎるという理由でゲームを中断する方よりも、その逆のほうが圧倒的に多いのではないかと考えています。今後また別のゲームを作る機会があっても、おそらく、この快適さ優先の指向は自分の中で変わらないように思います。簡単すぎてやりごたえがないのも問題なので、このあたりはまだまだ加減を学ばねばならないでしょうが……。

 

番外編:個人的に好きなノンフィールドRPG

 シャドウ・ミュージアムはゲーム・非ゲームを問わず多くの作品から影響を受けていますが、それらすべてを列記する代わりに、ここでは作者が個人的に好きなノンフィールドRPG作品を挙げさせていただきます。

 

◆ストーリー・オヴ・スペシャリスト(フリーゲーム / 泉 和良 様)

 フリーゲーム制作サークル「アンディー・メンテ」の作品。「ミサ」「ガニュメート・ストレス」などと世界観を同じくする、ノーストリリア宇宙の物語。謎めいたパラメータ名や壮大な物語、個性的な仲間、独特のヴィジュアルがとても印象的でした。難易度もやさしめで遊びやすかったです。アンディー・メンテからリリースされたノンフィールドRPGはとても多いですが、個人的には今でもこの作品がいちばん好きです。

 

◆雪道(フリーゲーム / ポーン様)

 しんしんと雪の降る道を歩き続ける、一人の少女の物語。自身のHPを代償に攻撃力や防御力、あるいは特殊技能を獲得しつつ、ひたすらに雪道の果てを目指し続ける。淡々とした空気感とは裏腹に計画的なリソース管理が求められる難易度で、漫然とプレイしているとなかなかクリアできませんが、そうした試行錯誤が苦にならないだけの奥深さがあるゲームです。宿泊や装備品の購入に必要な通貨がマッチなのも独特で面白いなあと思います。

 

◆戦海ディザイア(フリーゲーム / レイ様)

 異形退治を生業とする女性(一部少女)三人が、バカンス先の海で遭遇した敵を討伐して回る物語。今回テストプレイにご協力くださったレイ様が制作された作品です。当サイトでも以前感想を書かせていただきましたが、強烈な個性を持ったキャラクターとシビアなストーリー、遊びやすさと骨のある難易度がバランスよく両立されているすてきなゲームです。ダンジョン道中での会話やキャラクター同士のかけあいなどの要素は、シャドウ・ミュージアムを作る際とても参考にさせていただきました。

 

◆デッキクエスト(フィーチャーフォン / セガ)

 セガ社のフィーチャーフォン向けサイトで提供されていたRPG。カード化された武器や魔法を集めながら、ダンジョンを攻略していくゲーム。ストーリーの詳細は明かされず、ダンジョンで手に入れるカードのテキストや敵キャラクターの断片的なセリフから背景を探っていくのが楽しかった覚えがあります。ゲームそのものは単調といえば単調なのですが、謎の多い世界観が好きで一時期ずっと遊んでいました。この作品に限らず、フィーチャーフォン向けのゲームは今見ても魅力的な作品が多いので、もっと顧みられる機会があっていいと思うのですが……。

 

最後に

 シャドウ・ミュージアムは所要時間の短い、ささやかな規模の作品ですが、前作と同様多くの方のご助力・ご厚意によって完成させることができたゲームです。

 制作ソフトウェアの開発会社様、各種素材・加工ツールの公開者様、ゲームセレクト主催者様、そしてこのゲームを遊んでいただき、すばらしいご感想やイラスト、レビューを下さった方々に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。願わくば、遊んで下さった皆さまに少しでもこのゲームが楽しい時間を提供できていますことを。

 今後の予定は例によってあまり考えていないのですが、また何か新しいものを発表できた際はお付き合いいただけますと幸いです。最後までご覧いただき、ありがとうございました。

 

 

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